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サヴァ缶に見るヒット商品になる工程

食品
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岩手県で製造されているサバの缶詰、「Ca va(サヴァ)? 缶」(以下、サヴァ缶)です。
サヴァ缶は、これまでの缶詰とは異なり、名前やデザインで人目を引く色を使いでおしゃれな雰囲気を漂わせています。
2013年の発売から、売り上げは約35億円に達し、製造数は1000万缶を越えました。
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サヴァ缶が世に出た背景

2011年に起きた東日本大震災は、多くの地域と人々に甚大な被害をもたらし、深い爪痕を残しました。
岩手県も被害に見舞われた県の一つです。
復興のため、地元では様々な手立てを模索していました。
サヴァ缶は震災被災地の食産業復興を目的として、一般社団法人「東の食の会」、食品製造販売会社「岩手缶詰株式会社」、岩手県の特産品を販売する「岩手県産株式会社」の3社共同で企画されました。
特産物になりそうなものを探し、安定した漁獲量があり、単価も比較的変動しないサバが目につきました。
2013年頃にそのサバを缶詰にして、全国に売り出そうという提案が上がりました。
ちょうどその頃、缶詰のおつまみ(国分の缶つま)がはやりだした時期でした。
国分は全国有数の食品問屋で酒類も扱っており、そのおつまみとして発売したのが缶つまでした。しかし、女性向けのものはなかったので、女性をターゲットにした商品を考えます。

サヴァ缶のコンセプト

「女性が自宅で飲む時間を楽しめるような、おしゃれな缶詰にしてはどうだろうか……」
健康面や栄養価を気にしている人に、サバはうってつけで、美肌効果についても期待されています。
日本でのサバの缶詰は、水煮やみそ煮といった、和風の味付けをしたものが一般的でした。
一方、ヨーロッパなどでは、オイルサーディン缶(イワシの油漬け)が広く食べられています。
それらを参考に、女性が好むヘルシーな「サバのオリーブ油漬け」の構想ができあがりました。
洋風の味付けにすれば、差別化も図れ、対価に見合う付加価値になると、考えました。
第三セクター「岩手県産」
岩手県産品は販路拡大を通じて、同県内の産業振興に寄与することを目的として、1964年12月に設立された第三セクターの会社です。
「東の食の会」と「岩手缶詰」から、新たなサバ缶の提案が「岩手県産」に持ち込まれます。しかし、岩手県産では、缶詰の取扱いがほとんどありませんでした。
それに加え、大量の製造ロット数と高い価格設定が二の足を踏ませました。
缶詰を製造する「岩手缶詰」から提示された缶詰製造ロット数は、2万8800缶。
製造コストを考え、安定した収益を出すには大量生産しなければなりません。
しかも、1回の製造で1千万円以上の資金が必要となり、売れ残った在庫を抱えるリスクが懸念されました。
また、販売価格についても、従来のサバ缶とは異なりました。
これまで、サバの缶詰の平均小売価格は100円台でした。
「東の食の会」では、これまでの缶詰に対し、「いいものを作っても安く扱われる。しかし、これからは、生産者や流通がしっかり利益を得られ、消費者も満足感が得られる商品を確立していく必要があるのではないか」という考えを持っていました。
それを受け、価格は360円(税抜き)と、従来のサバ缶の約3倍という、高め設定でした。
どれだけ売れるのか見当もつかず、リスクを考えれば考えるほど、決断できませんでした。そうした思案の中、商談の場は重い沈黙が続きました。

「岩手県産」総務部長の決断

その場に同席した、総務部長だった佐藤則道もまた、結論を出しかねていました。
そうこう考えているうちに、ふと、同社の設立目的が氏の頭をよぎります。
岩手県産品の販路拡大を通じて、同県内の産業振興に寄与することを目的とする
「東北の復興を自分たちがやらなかったら、復興の力になれなければ、会社が存在している意味がない」そんな思いが湧いてきました。
この時、「何してるんだ、早くやれ!」という声が、頭の中から聞こえてきたと、後年、氏は語っています。
「もし在庫を抱えることになっても責任をもって、商品を背負って売り歩こう、これはもうやるしかない! やろう!」と思い切って、決意を固めます。
その場にいた、同社の社長と営業部長を説得し、新しいサバ缶の製造・販売に向け、一歩を踏み出しました。

新たなサバ缶の名称は、「サヴァ缶」

かつて、岩手県が東日本大震災によって被災した時の、「全国の方々からもらった元気」を返したい、との気持ちを込めて、フランス語の「元気ですか?」という意味の言葉「Ca va(サヴァ)?」と魚の「サバ」を掛け合わせてたものです。
パッケージには、人目を引き、元気が出る色である、鮮やかな黄色を使い、そこに、スタイリッシュなロゴで「Ca va?」と入れたのです。
こうして、従来のサバ缶のイメージを覆し、インパクトのある「洋風おしゃれサバ缶」として打ち出しました。
ところが、サヴァ缶の製造・販売について社内に告知すると、猛反発が起こりました。
「こんな高い缶詰、誰が買うんですか! 売れるわけがない!」
これまでの約3倍という高い価格設定に、皆、戸惑い、「小売店や消費者に受け入れられるかどうか……」そんな不安を感じたからでした。

今さら後に引けない

「売れる、売れないは結果論。とにかく、やろう!」と、社内のメンバーに熱い情熱を持って会社の意義を説き、協力を仰ぎます。
繰り返しはたらきかけるうちに、「もし売れなかったとしても、社員全員で頑張ろう!」という雰囲気が高まっていきました。
そうして、これまで取引のあった全国の卸企業や小売企業に対し、積極的に売り込んでいきます。確かに、人目は引いたものの、すんなりと扱ってくれるところは多くはありませんでした。
予想していたように、「価格の高さ」が取引のネックでした。
それ以外にも、スーパーなどでは、缶詰の販売スペースや棚割が既に決まっているため、そこに割って入ることは容易なことではありませんでした。
しかし、根気よく営業を行ううちに、岩手県内や九州のスーパーにサヴァ缶が置かれるようになりました。
商談会や展示会にも積極的に臨み、情熱を持って地道に営業を続けていきました。
すると、スーパー以外でも、サヴァ缶を扱ってくれるお店が増えてきたのです。

予想しなかったところで……

震災復興のため、企画されたサヴァ缶。製造・販売を請け負った岩手県産株式会社は東北の復興のため、「売れるかどうかわからず、大量の在庫を抱えてしまうリスク」があるにもかかわらず、思い切って飛び込んでいきました。
そして、スーパー以外の、意外なお店でも、サヴァ缶が扱われるようになったのです。
「見た目はかわいいのに、サバ缶」と、サヴァ缶の見た目の意外性が人目を引き、パン屋さんや雑貨屋さん、セレクトショップ等、従来の販路にはない、思いもよらなかったところで扱われるようになりました。
おしゃれな雑貨に混ざって置かれたサヴァ缶が、女性客の目を集めました。
「おしゃれだから、サバ缶を食べたことがないけれど買ってみた」
「買ってきたサヴァ缶を部屋に置きっぱなしにしても、全然浮いた感じがしない」
など、おしゃれな雰囲気が、女性から受け入れられた一因のようです。
さらに、追い風が吹き始めました。
サバの栄養価の高さが見直され、生活習慣病の予防やダイエット効果もある健康食品として各メディアで報じられるようになりました。
そして、長期保存が可能で、手軽に摂取することができるサバ缶に注目が集まり始めたのです。
「サバ缶は美容・健康によいとされる不飽和脂肪酸オメガ3のEPAとDHAをふんだんに含んでいて、サバ缶1缶で、1日に必要なオメガ3を摂取できてしまう」などや、サバ缶の「認知症予防」「学習機能向上」「血管の若返り」「ストレス軽減」「美肌」といった栄養効果が、様々なメディアで取り上げられました。
サバ缶を使った料理のレシピ本も発刊されるようになりました。
その流れが大きくなる中、サヴァ缶にも目が集まり、「パスタやアヒージョなどいろんなアレンジが簡単にできる」と好評を得ます。
女性たちの目を引いたサヴァ缶は、女性誌やライフスタイル誌などにも取り上げられるようになりました。
結果、売り上げは安定するようになり、軌道に乗り始めます。

第2弾の商品を発売

予想以上の反響を呼んだことで、第2弾の商品を発売することになりました。
第1弾は元気が出る、原色のイエローのパッケージでした。
そこで、第2弾のパッケージは、原色のグリーンとレッドを使い、調理もグリーンに合わせ、女性にも人気の高いバジルを使う、そんな構想ができあがりました。
方向性が決まり、すんなりいくかのように思えました。ところが……。
サヴァ缶を作るにあたり一番のこだわった点は、魚の臭みを感じさせないことでした。
第1弾のオリーブオイル漬けは、思いのほかうまくいきました。
しかし、バジルソースだけでつくると鯖のにおいが残ってしまうのです。
さらに、バジルを加熱すると、変色して見た目も悪くなってしまいました。
そのため、幾度となく試作を繰り返しましたが、ついには、行き詰まってしまいました。
第2弾開発に向け、取り組んでいた開発メンバーは打開の兆しが見えず、心が折れそうになります。
そんなある日のこと、「レモン果汁を加えてみたらいいのではないか……」そんな意見が出ます。早速、試してみたところ、これが突破口を開くこととなりました。
行き詰まりを打破する糸口をつかめたことで、製品開発は進んでいきました。
第1弾発売から2年半後の2016年3月、第2弾の「レモンバジル味」を発売します。
追い詰められ苦心しながら、妥協せずこだわりを追求し完成させました。
それだけに、「絶対の自信を持っています」と語っています。
その翌年、第3弾として辛口の「パプリカチリソース味」をレッドのパッケージで発売し、ラインナップは3種類に増えました。
すると、食べ比べのため全種類を買ったり、交互に購入する消費者が増え、売り上げがこれまで以上に伸び上がったのです。
さらに、化粧箱を用意して3種類をギフトパッケージにしたところ、注目を集め、プレゼントや手土産用として売れるようになり、この化粧箱入りセットは人気商品の一つとなりました。
今では、黒色の「ブラックペッパー味」、青色の「アクアパッツァ風」が加わり、ラインナップは5種類に増えました。
このようにサヴァ缶は、従来の「サバ缶」のイメージを覆した画期的な商品として、消費者を獲得していったのです。
また、サヴァ缶の登場は、消費者に対してだけでなく、水産缶詰市場にも大きな影響力をもたらしました。
他社も追随するように、「おしゃれなパッケージ」「洋風の味付け」のサバ缶を打ち出すようになりました。
それまでにはなかった「洋風おしゃれサバ缶」という新たなジャンルを生み出したのです。

ツナ缶を上回る!

これまで魚の缶詰といえば、「ツナ缶」が圧倒的な出荷量でしたが、サバ缶の需要は伸び続け、2017年にはツナ缶を上回り、需要はさらに伸びています。
そんなサバ缶の盛り上がりに、「サヴァ缶」も一役買っているといえそうです。
震災復興のために生み出されたサヴァ缶ですが、今や、被災地支援にとどまらない、ヒット商品となりました。
多くの人々に愛され続け、リピーターも少なくないといいます。
それは、サヴァ缶を発売し始めて5年を過ぎてもなお、勢いは衰えないばかりか、2018年は、1年足らずで200万缶近くの売り上げをみせています。
2019年1月時点では500万缶を突破し、そして、2021年には、累計製造数は1000 万缶を突破したのです。

まとめ

サヴァ缶というヒット商品を世に送り出した岩手県産の取り組みが全てを物語っています。
大きなリスクがあるにもかかわらず開発・販売に踏み切った「思い切り」、「東北を復興させるぞ」「社員全員で頑張るぞ」という情熱あふれる営業活動、妥協することなく、こだわりをもった商品開発。
これらに見られる、「思い切り」「情熱」「こだわり」が成功へとつながったのでしょう。
復興に貢献し、水産缶詰のイメージを、地方から変えた商品が「サヴァ缶」です。